2025年以降使用する中学校の教科書が決まりました

―教員の意向尊重 歴史も公民も東京書籍―

  24年8月2日、酷暑の中駆け付けた85名の傍聴者が見守る中、採択のための教育委員会が開かれました。社会科では歴史も公民も現場の先生方の希望が一番高かった東京書籍となりました。また道徳も希望通り、光村図書出版になりました。一方で、教科書採択を通して藤沢市の教育をめぐる課題も浮かび上がりました。また全国的には育鵬社はさらに採択部数を減らしていますが、歴史に新規参入した令和書籍の「国史」問題や常陸太田市の自由社採択などの諸問題については、ニュースの最新号に詳細を記しましたのでお読みください。

藤沢とりくむ会は、活動を終えます

 2011年秋、藤沢市の中学校の教科書に育鵬社の歴史と公民が採択されたことを受け、現場の先生方と市民がつながることができる組織として「藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会」(藤沢とりくむ会)を立ち上げました。同じ時期に組織された「神奈川の教科書・採択問題にとりくむ会」や藤沢で活動実績にある「みんなの教育・ふじさわネット」と連携して活動を進めてきました。

 2015年の次の採択で、育鵬社とは縁が切れると思っていましたが、よもやの継続使用の決定でした。その後、議会陳情、教育委員会請願などを経て、藤沢市議会でも取り上げられ、その質疑を契機に、資料の可視化が進み、現場の調査・研究や保護者市民の意向も資料として採択の過程に位置づけられました。そして2020年、ようやく育鵬社不採択となりました。

 2020年は、横浜市でも育鵬社は不採択となり、「神奈川の教科書・採択問題にとりくむ会」は、活動を休止(実質的には解散)しました。しかし藤沢では、教科書をめぐって何が起きたのか、2011年以来の活動の内容と意味について伝えていくことが必要と、次の採択の2024年まで4年間、藤沢とりくむ会は活動を継続することを決めました。

 2024年の採択が終了した今、予定通り活動を終えます。

皆さま方のたくさんの方のご支援とご協力に心より感謝申し上げます。

※尚、ホームページについては1年ほどこのままにしておき、活動記録として活用していただければと考えています。

1.2011年の採択

 海老根靖典藤沢市長(当時)による教育委員の恣意的人事が続き、2011年の中学校の教科書採択時、育鵬社支持の委員が多数となっていました。教育長は歴史・公民のみ審議に加わらず、明確に育鵬社に反対をしたのは保護者枠の委員のみでした。現場の先生方の意向を示す「教科用図書調査書」では育鵬社の評価は極めて低いものでしたし、答申を出す「教科用図書審議委員会」でも育鵬社を推薦する委員は他社に比べて少ないものでした。また教科書展示会での市民の意見も育鵬社への懸念を示す意見が多数に上りました。それでも育鵬社の歴史・公民の採択が強行されました

2.藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会結成、その活動

 2011年秋、市民と教職員が連携して育鵬社問題にとりくむために、新たに「藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会(藤沢とりくむ会)」を組織しました。藤沢市ではそれまでも、「みんなの教育・ふじさわネット」が全国組織である「子ども教育ネット21」と連携して地域の教育・教科書問題に取り組み、広範な活動をすすめていました。そこで、お互いに活動の裾野を広げながら連携、最終的な局面での共闘を心がけることとしました。

また横浜市が2009年の自由社の歴史採択に続き、2011年育鵬社の歴史・公民を採択したこともあり、県域で育鵬社問題にとりくむ「神奈川の教科書・採択問題にとりくむ会」(県とりくむ会)が発足し、以来「藤沢とりくむ会」は連携して活動を行うことになりました。

 また2015年の採択以降は、「子どもたちに渡すな! あぶない教科書 大阪の会」を中心として「フォーラム平和・人権・環境」と連携する全国グループの活動に参加し、全国集会出席、ML(メーリングリスト)での情報交換などの種々の活動を通して全国の運動ともつながりました。

 教職員組合は、教員に教科書使用義務があること、検定を通った教科書の批判は慎重に行う必要があることを前提に活動せざるを得ませんが、教科書研究は教職員組合の本分と、地域の教職員組合が、2011年秋に「教科書研究会」を立ち上げ、教科書研究、「教科指導案」(育鵬社の教科書を使用する際の注意や欠落している資料の提示など)作成などの活動をほぼ毎月行い、学校現場へも発信し続けました。「藤沢とりくむ会」のメンバーも、この研究会に参加し、教育研究集会などでも報告をすることができました。また地域では、市民組織「こどもたちの未来@ふじさわ(こども未来)」が開催するミニ学習会を支援し、市民の皆さんと育鵬社教科書問題を中心に、第2次安倍政権が次々繰り出す教育政策や折々の教育問題についても学びを深めました。またこども未来は、2013年以来毎年、中学校の入学者説明会(小学校6年生の保護者が参加)に合わせて中学校の校門で、育鵬社の教科書の問題点を指摘したリーフレットを、藤沢とりくむ会と連携をして配布しました。同日同時刻の開催が多く、人が足りず全中学校できない年もありましたが、多くのサポーターも参加してくれ、保護者の受け取りも良く、充実した取り組みとなりました。

3.2015年採択

 2015年夏の採択替えに向けて、「現場の教員や保護者の意向を尊重してほしい」という要望書の賛同署名を、「みんなの教育ふじさわネット」「県とりくむ会」とも協力して取り組み、54,000筆を超える賛同署名を積み上げ、藤沢市教育委員会に手交しました。

 採択に際して提出された社会科教員の意向を示す「教科用図書調査書」の育鵬社の評価は低く、審議委員会でも育鵬社支持の意見は少なく、展示会の市民・保護者の意見も「育鵬社NO!」が多数で、採択の参考にすべき資料はすべて育鵬社の継続採択を否定していました。しかし採択の教育委員会は、多数決で育鵬社の継続使用を決めました。教育委員が掲げた育鵬社採択の理由は、どれも説得力を欠くもので、他社を強く推した教育長の発言も顧られることなく、他社と2冊支持した票も入れて「多数決」と称する採択、また委員の一人の全教科書を検討していないという発言など、経過も結果も納得できないものでした

4.街頭宣伝、市議会への陳情、教育委員会への請願へ

 不合理な採択後、「藤沢とりくむ会」の市民は、まず市教育委員会に抗議文を送り、街に出ました。「私たちは怒っているんだ!」などのプラカードを作成し、藤沢駅で街頭宣伝を行いました。また公開質問状を個々の委員に渡しましたが、回答はありませんでした。県とりくむ会も藤沢市教育委員会へ抗議文を送りました。続けて9月市議会子ども文教常任委員会へ「藤沢市教育委員会7月定例会の審議経過について詳細な説明を求める陳情」を提出。教育委員会9月定例会への請願を行いました

 藤沢市市議会の常任委員会は中継もあり、議事録も作成されます。陳情者として意見陳述、常任委員の市議との質疑もありましたので、陳情書に書ききれなかった問題点も広くアピールすることもできました。結果は可否同数でしたが、委員長(公明党市議)の判断で不採択となりました

 教育委員会の請願も陳述がありますが、質疑はなく、中継もありません。でも意見陳述以外は議事録には残ります。藤沢市教育委員会7月定例会の審議経過について詳細な説明を求める請願として、「1.社会科歴史・公民で現場の先生方の希望が全く反映されなかったのは何故か。2.公民の審議で阪井・井上委員は育鵬社と東京書籍を並列的に推薦。しかし関野委員長は、再度2人に意見を求めることなく、育鵬社が若干多いと判断されたのは何故か。3.小竹委員より、歴史の審議対象8冊のうち3冊だけを拝見した旨の発言があったことを傍聴者は確認しているが、議事録にその部分の記載がないのは何故か。」という請願を行いました。3点とも経過は問題なしと不採択となりました

5.資料の可視化・現場の意向も尊重へー議会での質疑から

 2016年の2月議会代表質問、2017年の2月議会予算特別委員会の質疑でで取り上げられました。教育委員が全教科書を選ぶことの困難さが指摘され、現場の先生方の調査研究などのわかりやすい資料の提供の必要が求められました。また審議委員会の答申の在り方についても近隣他市との比較をしながら、改善が求められました。これに対して、事務局は「今後、教育委員が教科用図書採択方針を決定するための判断材料としてさまざまな資料を提供してまいります」(2016年)、「教科書採択における公平性、透明性の確保について一層徹底するということが求められています。採択権者の権限と責任により、綿密な調査研究を踏まえた上で、適切に行われることが必要であることはもとより、採択権者は採択結果やその理由について、保護者や地域住民等に対する説明責任を果たすことが重要」(2017年)と答弁をしました。

 これを受けて2016年から資料の可視化が始まりました。特に2017年の小学校「特別の教科 道徳」の教科書採択では、審議委員会の答申に議事録(従来の形)に加えて教科書会社別に発言をまとめなおした資料が作成され提出されました(2019年からはこれが答申、議事録が参考資料となった)。「市民意見」も全て入力された冊子になり、「教科用図書調査書」は、各学校が観点別に選んだ教科書を示す〇印の一覧と、コメントを入力した資料になりました。2011年も2015年も委員長が参考にしたと列挙し、会場に簿冊として置いてあるだけに見えた諸資料が、個々の委員にも「見える化」したものとして手渡されることになりました。

 また教育長による「審議委員会の答申」「現場の意向」尊重発言が注目されました。2017年から3年間教育長の職にあった平岩多恵子氏は、2017年には「各種調査資料、答申書等を拝見いたしました。私は郵便局や各学校で行われました教科書展示会での意見や各小学校長が作成した調査書に基づき意見を述べさせていただきたい」と話し、2018年には「展示会には多くの市民の方々にお越しいただき、さまざまな貴重なご意見をいただきました。その中で多くの方が現場の先生方の意見を尊重してほしいとのご意見を述べられておりまして、私も教科書を使う学校の意見を尊重することはとても大事な視点と考えております」、2019年には「展示会におきましては、・・・ 各教科に対するご意見も多数ありましたが、教科書を使用する現場の学校の先生の意見を尊重してほしいとのご意見も大変多くいただいた」とし、「私も、実際に教科書を使う先生方が使いやすく、そして教えやすい教科書であることが、子どもたちの学びにおいて大変大切な視点であると考えております。そして各学校に調査研究を行いまして、各学校長から提出された『教科用図書調査書』につきましては、今お話したような視点から、私は内容を拝見し、尊重してまいりたいと考えております」 と「教科用図書調査書」の意義とその尊重を前提に意見を述べています

6.3年間続いた採択―教員も市民も訓練ができた

道徳の教科書(小学校)
道徳の教科書(小学校)

 2017年が小学校の「特別の教科 道徳」の採択、2018年が中学校の道徳、2019年が小学校新教育課程の採択と2020年の前3年間、採択が続きました。「特別の教科 道徳」は、両年とも1科目、しかも多くの市民が教科化について問題を感じ、さらに教科書の内容を身近に感じることができ、意見も書きやすい教科でした。また、教員にとっても全教員が関係ある道徳の採択でした。藤沢とりくむ会も「道徳の教科化」の問題、「考え・議論する道徳」と言われながら実際に登場した教科書が多くの課題を抱えていることを共に考える学習会を何度も企画しました。この道徳の採択に関わる2年間の経験が、保護者・市民が教科書展示会に足を運び、意見を書くことのハードルを低くしたと考えられます。藤沢市の場合は、学校ごとに教員向け教科書見本本の巡回展示が行われる時期に保護者・市民向けの展示会も学校で実施されています。地域の学校での展示会は、保護者は勿論市民も参加しやすく、また参加者の分散化もはかれます。藤沢とりくむ会は、ホームページを活用し、展示会日程の周知に努めました。さらに前述したように市民意見がすべて入力され、その冊子が、審議委員、教育委員の手元に渡ることになり、市民参加の可視化も進みました。 

7.教員アンケート

 2018年の小学校採択(4年目の採択替え、ただし残り1年で新教育課程の教科書採択となる)で、文科省の指示に沿って「残り1年」「使用している教科書は問題なし」として、全部の教科書の継続使用が提案され決まりました。翌2019年には中学校の残り1年の採択が行われます。ここですべて「問題なし」と育鵬社の教科書も「評価」されては困る、社会科教員が困っていることの可視化が必要と考えました。本来でしたら、教育委員会の事業評価の一つとして、採択した後の教科書を現場の教員がどのように評価しているか、調査があってしかるべきですが、行政は実施していません。

 そこで現場の社会科教員を対象にアンケートを実施することにしました。教科書研究を継続して行ってきた「教科書研究会」(P.1参照)では、それまでも何度かアンケートを実施してきましたが、多忙を極める現場からの回答は少なく、全体の傾向を測る指標には使えない結果に終わっていました。

配布、回収には教職員組合の力を借り、2018年12月に開始しました。最終的に市内19校の中学校の中の17校の社会科の先生方42名が回答を寄せてくれました。使いやすいか、使いにくいかという問い以外は自由記述にしました。結果、8割が「使いにくい」と回答。自由記述には、

  • 肝心な記述や資料がなく、初めて歴史や公民を学ぶ生徒に対して、とてもわかりにくく、中学生の目線で教育的に書くという配慮に欠けている。
  • 編集姿勢、思想の傾向が問題で、人類が目指してきた国際協調の理念や人権思想についての通説や歴史学等の長年にわたる研究の成果などを学ぶことができない。
  • 外国につながる子どもの多い藤沢市で「その子どもが寂しくなってしまうような表記が各所にある
  • 知識の偏りや押しつけが多く、多面的多角的な思考力が育たない。
  • 他の教科書記述と違う点が多く、入試への対応に苦労している

等々の声があげられました。それでも、生徒が主権者として力をつけることができるよう、教員が教材に真摯に向き合い、工夫をしている姿がこのアンケートから浮かび上がりました。アンケートは最終的に「藤沢とりくむ会」の責任でまとめてホームページにアップしました

8.使いにくい教科書があるが・・・

 2019年5月、「藤沢とりくむ会」は、藤沢市教育委員会に、中学校の採択替えに当たっては、「使用している中学校の現場の状況を把握したうえで、決定」するよう、別添資料として前述のアンケート結果を添え、要望しました

 その後、教育委員会へ答申を提出する「審議委員会」に変化が生じました。残り1年の中学校の採択替えの審議は、使用実績を踏まえて行うとし、中学校長である2名の審議委員に使用実績について報告するよう第2回審議委員会の場で要請がなされました。そこで急遽藤沢とりくむ会も、市内19校の校長に「アンケートのまとめ」を郵送し、現場の声を届けました。

第3回の審議委員会では、冒頭、委員(中学校長)2名は、校長会にも確認をしたとし、教科書によっては「使いづらい」ものもあるが、教員は資料や補助教材を活用し、工夫しながらやっていると発言しました。最終的には、新規参入教科書もなく、また来年は新課程の研究や新課程教科書の採択に集中すべきだと、全教科書の継続使用が了承されましたが、「使いづらい」教科書があるという認識が審議委員会の場で公に示され、議事録に残りました。

7月30日には、小学校の新課程の採択を主たる案件にした定例教育委員会が開催されました。また中学校の残り1年の採択も行われ、その場でも教育委員会の担当が審議委員会の、「使いづらい教科書もある」という指摘の経過を報告するという手続きが取られた上で継続使用が決まり、議事録にも残りました

9.20回を重ねた市民の集い

第13回集い 講師は上杉聡さん
第13回集い 講師は上杉聡さん

 年間2~3回の大きな学習会(教科書を考える市民の集い)を実施してきました。毎回若い先生方も多数参加し、市民とともに学び合う場になりました

 講師は、以下の方々でした。敬称略、( )内の数字は集いの回数です。池田佳代子・東本久子(1)、鶴田敦子(2・9・17)、上杉聰(3・13)、佐々木寛(4)、田中宏(5)、世取山洋介(6)、大内裕和(7・8)、穂積匡史(10)、山中智子(11)、太田啓子(12)、楾大樹(14)、中嶋哲彦(15)、松下良平(16)、澤田稔(18・19)、宮澤弘道(20)。

 つくる会系の教科書の不採択を勝ち取った、しかも藤沢市長がお手本にした杉並区のお話を池田佳代子さん、東本久子さんからうかがうところから始まった「市民の集い」。また2015年の藤沢の継続採択後も、不採択を勝ち取った大田区の運動について山中さんから学びました。その他この9年間に改憲の動きが顕在化したこともあり、憲法と教科書問題(穂積さん、楾さん、太田さん)、奨学金問題・子どもたちの貧困の問題から教育をめぐる課題について熱く語っていただいた大内さんには続編をお願いしました。元中学校の先生でいらした鶴田さんは現場の思いも踏まえた教科書をめぐる情勢のお話をしていただくことができるので、困った時の鶴田さんと、頼りにしました。大阪の「子どもたちにわたすな! 危ない教科書 大阪の会」の代表の上杉さんには、ご著書にある日本会議の問題、大阪のフジ住宅の展示会への違法な社員動員などのお話、平和学のお話を佐々木さん、外国につながる子どもたちの人権のお話を田中さん、世取山さんには新自由主義の教育改革の深刻な問題点、中嶋さん、澤田さんには教育をめぐる全体的な問題、とりわけ新課程の課題について、道徳教科化は松下さん、宮澤さんなど多彩な、今役立つお話をして下さる方々をお招きすることができ、市民にも教員にも幅広い学びの場になりました。

 藤沢とりくむ会は毎回「基調報告」の時間を取り、育鵬社問題の状況、課題、また道徳の採択の時期には、道徳の見本本の問題点などについてもお話をさせてもらいました。

 

10.2020年採択

三団体で署名簿を手交
三団体で署名簿を手交

 「県とりくむ会」は、採択に向けたキックオフ集会を兼ねたシンポジウムを3月27日に企画していましたが、学校が全国一斉休業に入り、コロナの感染の広がりもあり、中止せざるを得なくなりました。藤沢とりくむ会も6月初旬の「市民の集い」を企画して推移を見守りましたが、結局中止にしました。

教職員組合の「教科書研究会」では、見本本の研究ができる体制を整え、「教科用図書調査書」作成の現場に資料提供を行いました。

 「現場の教員と保護者の意向尊重」という要望書の賛同署名も、県とりくむ会の協力のもとに、藤沢では「藤沢とりくむ会」と「みんなの教育ふじさわネット」が総力をあげて取り組みました。オリジナルのチラシも作成しました。今回採択を許したら歴史の教科書は、今の小学校3年生の学年の子どもまで使うことになるという事実に危機感を持った保護者世代も、署名集めに熱心に取り組んでくれました。結果はコロナ禍のなか、38,072筆の署名簿を藤沢市教育委員会に手交することができました

 学校での展示会への市民参加は、感染防止の観点から中止、市役所での展示のみとなりました。展示会は、検温、消毒は当然のことながら、ビニール手袋着用、筆記用具も貸与のものを使うという厳戒態勢での実施。しかも1セットしか教科書がなかったために、育鵬社を読みたいという希望がかなわないなどの問題も生じました。藤沢とりくむ会は、展示会参加者に向けてポイントを解説するミニ学習会を急遽感染予防に留意しながら実施しました。

手製のボードを掲げて報告集会で喜びのスピーチをする参加者
手製のボードを掲げて報告集会で喜びのスピーチをする参加者

 審議委員会は、傍聴も人数は制限されましたが実施され、傍聴者には「教科用図書調査書」の集計表が配布されました。この資料は学校現場の育鵬社の評価が低いことが、一目瞭然わかる資料で、これの配布は事務局の英断でした。審議委員会の議論の中でも育鵬社を評価する発言は少なく、安心しました。

 7月31日、採択のための教育委員会定例会が、コロナ感染防止対策が取られた上で、市民会館第一展示ホールを会場に行われました。定員を超える希望者があり抽選となりましたが、外れた人も市民会館小ホールで音源のみですが、聞くことができました。

 審議の中で岩本將宏教育長は「各学校において調査研究をしていただき、『教科用図書調査書』としてまとめていただきました。この調査書は、実際に教科書を用いて授業をする先生方の貴重なご意見ですので、大切な資料として参考にさせていただきました。」と、現場の意向も尊重する旨、発言。2017年以来の透明化が進んだ流れが継承されました。最終的には教科用図書調査書で一番評価の高かった東京書籍の教科書が歴史も公民も選ばれました

 終了後の報告集会を「藤沢とりくむ会」と「みんなの教育ふじさわネット」の共催で行いました。現場教員にも参加をしてもらい、お互いの活動をねぎらい、喜びを共にすることができました。市民組織の共闘、教職員組合との関わりは、各地で課題となっていますが、教科書研究の場で9年間ほぼ毎月顔を合わせ、教科書研究を軸に情報交換してきたことが、連携、共闘を可能にした大きな要因であったのではないかと思います。

 

11.メディアの報道

内容は、注㉔でご確認ください。
内容は、注㉔でご確認ください。

  2015年の採択では神奈川新聞が育鵬社問題の背景、現場の教員の思い、保護者の思い、見本本の問題点など事前に連載記事で伝えてくれ、広く市民に伝えるためには、メディアが重大な役割を果たしてくれることを実感しました

2020年の今回も、地元紙の神奈川新聞、朝日新聞、東京新聞が熱心に報道をしてくれました。2011年も2015年も現場の意向は「育鵬社NO!」であったこと、夏の採択が注目されていること、展示会、署名活動などの告知、教員と保護者の意向を尊重せよという要望書の賛同

 署名 38,072筆を「藤沢とりくむ会」「県とりくむ会」「みんなの教育ふじさわネット」の三団体で、藤沢市教育委員会に届けたこと、「教科用図書調査書」で現場の教員の評価は今回も低かったこと、審議委員会の答申を読み込むと育鵬社は評価されていないことなどを時宜を逸せず報道してくれ】また朝日新聞の「教科書2020」シリーズは、神奈川県の育鵬社採択の活動に関わった日本会議神奈川副委員長木上和高氏、採択時の藤沢市長海老根靖典氏、横浜市の当時の教育長今田忠彦氏などのインタビュー記事を含む読み応えのある特集を組み、神奈川新聞も「時代の正体 教科書はいま」で、育鵬社教科書の問題点を明らかにしてくれました。東京新聞もなぜ教科書に関わるのか、参加者の思いを丁寧に伝えてくれた。

 採択を受けて「やっと現場の意向 他自治体へ波及も期待」「生徒本位の在り方訴求」(神奈川新聞)、「やっと普通の教科書に」(東京新聞)など私たちの思いを、翌日の各紙が広く伝えてくれました

 

12.藤沢とりくむ会のこれからについて

 育鵬社は、県内では藤沢市だけでなく横浜市、全国でも大阪市などで不採択となり、2021年からの歴史のシェアは1.1%(2020年6.4%)、公民のシェアは0.4%(2020年5.4%)と激減しました。

 藤沢とりくむ会の当初の目的は達成できました。しかし藤沢とりくむ会の声明(2020年9月発表)に記したように「安倍政権下で教科書検定基準・手続きの改定が進み、教科書の記述全般に著しい変化が生じています。さらには現場の教員の多忙化が進み、時間をかけて教科書研究をするゆとりが失われているとの声も寄せられており、地域の教科書・教育問題には課題が山積」です。市民と教職員との連携の必要、9年間の軌跡の継承などの課題もあります。解散はできません。「子どもたちにより良い教科書を!」の活動を、当面次回の採択(2024年)まで継続することにしました。(文責 樋浦 敬子) 

巻末の脚注 丸数字をクリックしても見られます

教育長は歴史・公民のみ審議・採択に加わらなかった。現場の意向や審議委員会の議論を無視して育鵬社を支持した教育委員の議論が説得力を欠く一方、唯一反対した澁谷晴子委員のなぜ育鵬社がふさわしくないのかの的を射た議論に注目してほしい。

2015年の教育委員会審議、問題点は③の抗議文④の公開質問書➄県とりくむ会抗議文参照

⑥議会陳情教育委員会請願は不採択の問題点を広く「見える化」する試み。

2015年9月 子ども文教常任委員会議事録 陳情に関わる部分のみ

⑨ 2015年9月 教育委員会請願議事録 組織として教育委員会は瑕疵がないと応答。

2016年3月9日〈2月議会 本会議〉柳田秀憲議員(会派かわせみ代表質問)要旨4「教科書採択制度について」

2017年3月16日〈2月会議 予算特別委員会〉脇れい子議員と坪谷指導主事との応答

⑫⑬⑭ 採択の教育委員会における平岩多恵子教育長の言葉。現場の意向尊重を明言。

⑮ 教員対象アンケートは、全国でも類例がなく、藤沢の取り組みで現場教員のアンケートが実施できたことは、各地から高い評価を得、引用して紹介されることも多々あった。

⑯ 2019年の採択に向けて、「みんなの教育ふじさわネット」も申し入れを行っている。審議委員会で実態把握の過程が設けられたことの意義は大きい。

⑰ 審議委員会での「使いにくい教科書もあるが・・」という認識が答申の前提として共有された。またその過程を採択のための定例教育委員会で確認するというプロセスが踏まれ、議事録に残されたことは、2020年の採択につながる動きであった。

⑱ 一覧を掲載

⑲ 配布チラシ。2013年以来中学校説明会で配布していたリーフレットをもとに、教科書の内容をわかりやすく説明することを心掛けて作成した。

署名は、「神奈川とりくむ会」「みんなの教育・ふじさわネット」「藤沢とりくむ会」の三団体で集め、手交した。藤沢市の採択過程の改善点を明記し、そのうえで現場の教員と保護者の意向尊重を求めるという内容で広く賛同をいただいた。

審議委員会でのまとめ資料の傍聴者への配布は、「教科用図書調査書」の重要性が明示されたことであり、今後ますます注目を浴びることを意味する。

岩本教育長は、慎重な言い回しながら、現場の意向も尊重を明確に発言。

各教育委員の真摯な姿勢が感じられる議論であった。しかしそもそも教育委員が個人的に研究し、全部の教科書を選ぶことは無理である。教育委員会制度は、レイマンコントロール(教育の専門家ではない教育委員が「住民の代表として専門的な行政官で構成される事務局を指揮監督する」制度(文科省ホームページ))という性格を持つが、「権限と責任」で教科書まで教育委員が決めることが強調されるようになっているのが現状である。

私たちが運動で求めてきたことを、翌日の各社は丁寧に報道。

運動の継承と課題の共有が今後の課題。

 

藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会(藤沢とりくむ会)のHPへようこそ!

子どもたちにとって教科書は、とても大切な教材です。毎日使う子どもたちへの影響の大きさは計り知れません。子どもたちに適切な教科書を選ぶことができるのは誰なのでしょうか。 

国連「ILO・ユネスコ 教員の地位に関する勧告」では、専門職である学校の先生は教科書の採択でも重要な役割が与えられるべきであると書かれています。先生の意向が尊重されるべきという考え方は国際標準なのです。 

さらには、教育当事者である保護者の意見も反映すべきことは文部科学省も指摘するところです。 

ところが、この藤沢市では、一部の教科で、先生や保護者の評価が大変低い教科書が採択されています。どうしてこのような事態になっているのか、ご一緒に考えていきましょう。

公民的分野の教科書
検定を合格している7冊の教科書

 

  公民的分野を発行している出版社は、東京書籍、教育出版、清水書院、帝国書院、日本文教出版、自由社、育鵬社の7社があります。

  2015年の教科書採択で藤沢市教育委員会は、公民的分野で育鵬社の教科書を採択したため、市立中学校では3,500冊の教科書が使用されることになりました。全国的にみると、横浜市(26,840冊)、大阪市(18,500冊)、東大阪市(4,600冊)に次いで4番目に多い冊数となりました。


歴史的分野の教科書8冊
検定を合格している8冊の教科書

 歴史的分野の教科書を発行している出版社は、東京書籍、教育出版、清水書院、帝国書院、日本文教出版、自由社、育鵬社、学び舎の8社があります。

 2015年の教科書採択で藤沢市教育委員会は、歴史的分野で育鵬社の教科書を採択したため、市立中学校では3,500冊の教科書が使用されることになりました。全国的にみると、横浜市(26,840冊)、大阪市(18,500冊)に次いで3番目に多い冊数となりました。