藤沢市教育委員会議事録 抄 2011年7月28日
小澤委員長 続いて、社会、歴史的分野についてです。発行業者は7者、東京書籍、教育出清水書院、帝国書院、日本文教出版、自由社、育鵬社です。ご意見をお願いいたします。
佐々木委員 最初に発言させていただきます。私たち教育委員は、教科書の見本本が届いた6月からこれまでの間、精力的に各種目の調査研究を行い、藤沢の子どもの実態や保護者や地域の方々、そして市民の方々のご意見を把握し、また、審議委員会でも審議し、答申をいただきまして、この場に臨んでおります。したがいまして、採択での協議は歴史的分野そして公民的分野の学習の目標や内容を学習指導要領に立ち戻って考えることは大切であると考えております。また、「藤沢の子どもたちの教育にとって」という視点も大事にしたいと思っております。私はどの教科書であっても教師は教科書を教えるのではなくて、教科書で教えるのでありまして、そのために教材や教具を工夫して、子どもにとってわかりやすい授業をつくり上げていくわけです。そういうことから考えますと、私は基本的に歴史的分野における歴史的事象の表記方法、公民的分野における社会的事象とか現代社会についての取り上げ方に差異はあっても、検定に合格した教科書でありますので、どの教科書が採択されても問題があるというふうには考えておりません。教科書に記載されている内容につきましては、保護者や地域の方々そして市民の方々、教育現場の先生方の考え方や解釈の仕方、そして要望やご意見につきまして、さまざまな議論があることは承知しております。私は教育長として、教育現場を預かる者としまして、この場におきましては、各教育委員のご意見、ご協議を見守らせていただきたいと思っております。そして、それぞれの知見に基づきご議論をいただきまして、ご議論が尽くされた教科書が採択されることが望ましいと考えております。そういう意味で、歴史的分野と公民的分野におきましては、今述べた理由から、小澤委員長、よろしくお願いいたします。
小澤委員長 今、佐々木教育長から皆さんの議論が尽くされることを見守って、教科書を採択していただきたいということについては、受けていきたいと思います。
それでは、ご意見をお願いします。
赤見委員 私は育鵬社を推薦したいと思います。学習指導要領との関連で申し上げますと、「歴史新聞をつくろう」とか、「歴史のロールプレイをしてみよう」というコーナーがありまして、テレビでは歴史の事実を今の報道形式で取り上げている番組もありますが、そのような形で言語活動を重視した課題学習が設定されているなと感じました。また、伝統文化に関しても「読み物コラム」でよく紹介されていまして、モネやゴッホなどの有名な画家に影響を与えた浮世絵とか茶の湯、いけばななどが紹介されていまして、学習指導要領との関連ではよくまとまっている教科書だと思いました。
澁谷委員 私は帝国書院がよいと思います。全体を通して写真、文献資料、地図、グラフが多く、これら資料により学習指導要領の歴史分野の目標に示されているように、「歴史的事象を多面的、多角的に考察し、公正に判断する」ということができると思います。また、地図が多いことで地理分野の学習とも結びつけやすくなっていると思います。各時代の最後には「人間と自然のかかわり」というコラムで、地理との関連を、また、「未来へつながる社会」というコラムで、公民と関連を持たせ3分野でのかかわりも重視した構成になっていました。また、この教科書では各時代の冒頭に「タイムトラベル」という大きなイラストがあります。非常に細かく書き込まれたイラストで、その時代をイメージしやすく、学習意欲を高めるものになっていると思います。以上のことなどから私は帝国書院がよいと思います。
藤崎委員 私は育鵬社がよいと思います。育鵬社の歴史教科書におきましては、人物がたくさん取り上げられております。私自身、今回、歴史の中でほかの教科との関連というものを考えまして、例えば国語でも理科でもさまざまな人物が取り上げられますが、その人物が歴史の中でどんな時代に生きて、どんな仕事をしてきたかということを学べるのではないかと思います。そのときどう歴史は動いたかとよく言われますが、そういった人物をたくさん取り上げている育鵬社がいいと思いました。
小澤委員長 私は育鵬社がよいと思います。歴史絵巻や歴史物差しがあり、歴史の大きさの流れがわかりやすいと思いました。人物コラムやなでしこ日本史と読み物、コラムなどがあり、歴史的人物も多く紹介し、歴史人物に関して工夫があると思います。いろいろな視点からご意見をいただきましたが、大方の意見では育鵬社が多いと思いますが、よろしいでしょうか。
澁谷委員 育鵬社の歴史教科書についてですが、私は幾つかの点で藤沢市の中学校歴史教科書としてふさわしくない教科書であると考えます。1点についてのみ述べますと、この教科書では過去の戦争について、いかに過去の日本人が戦争を通して国家のために尽くしたか、また、戦争によりもたらされたとされる功績を強調するあまり、戦争の悲惨さ、戦争への反省がおざなりにされているととらえられかねない記述が幾つかあるように思います。
藤沢市では1987 年から10 年間にわたり、小中学生を対象とした広島への「広島平和ツアー」を行ってきました。その後、2002 年からは「平和学習長崎派遣事業」が行われており、実際に長崎を訪れた藤沢市の子どもたちは原爆の悲惨さを学び、全国の青少年とともに平和の大切さを学んでいます。また、藤沢市は1982 年に全国の中でもいち早く「核兵器廃絶平和都市宣言」をした市でもあります。このような取り組みを続けている藤沢市において、子どもたちに戦争はいかなることがあっても許されるものではないと明確に示し続けることは藤沢市教育委員会の役割であると私は思っております。よって、育鵬社の歴史教科書は藤沢市の中学生にはふさわしくないものと考えます。
赤見委員 内容についての観点で意見を述べさせていただきます。取り上げている歴史上の人物が520 余名と一番多く取り上げられております。いろいろな時代背景が深く掘り下げられていて、理解も深まり、発展的な学習ができるという点では非常によろしいと思います。また、「なでしこ日本史」というコラムがありまして、5つの時代で紹介されていて、女性に視点を当てた非常に斬新な切り口で、男女共同参画の時代には非常に即しているのではないかと思いました。それが育鵬社を推す理由です。
藤崎委員 私は韓国に留学した経験もあり、特に歴史教育については自分の人生においても、この歴史をどういうふうに子どもに教えていったらいいかということを20 代のころから考えてまいりました。今一番切実に願うことは、歴史教科書に関して、マスコミが一部分だけを取り上げて批判をしたり、国際的にもそういった一部の報道で日本という立場が論じられてしまう風潮を終わりにしたいということです。もちろんこれだけ騒がれることは、すなわち歴史を教えるということが、教育においてどれほど大切かということであるとも思います。私自身、どの教科書も軍国主義が復活するようなことは書かれておらず、戦争を二度と起こさないという精神に基づいてつくられていると思っております。また、もし、この国が戦争を起こすようなことがあれば、私自身は命をかけてでも阻止する考えです。ただし、韓国で歴史教育を見てきた私自身の経験、それからヨーロッパにおいてもヨーロッパ共同歴史教科書をつくってきた経緯なども研究してまいりましたが、子どもたちに歴史を教えることは難しいということを実感してきました。その意味において、育鵬社は人物を通して学び、先ほど教育長が教科書を教えるのではなく、教科書で教えるのだとおっしゃいました。ぜひ現場の先生方は教科書で教えるという中で、例えば中国、韓国あるいはアジアの子どもたちはどのような教科書を使って、どのように歴史を学んでいるかということを、日本の視点ではなく、そういった国の視点から日本の子どもたちが学ぶ機会もつくっていただきたいと思います。帝国書院の地図を見ますと、日本の地図が、中国大陸から見られている地図が1枚あります。これは日本人にとっては非常に奇異に映りますが、よその国から見たときに、日本というものがそういうふうに見えるんだと、そういう多角的な教育というのを目指して歴史教育を行っていただきたいと思います。
小澤委員長 今、ご意見をいただきました。藤沢市も核兵器廃絶平和都市宣言をしております。私も全教科を読ませていただきましたが、戦争を鼓舞するような教科書はもちろん選びませんし、これからも戦争はあってはならないと思っております。私たちは教育委員としてそのためにも国際社会における日本の立場や役割を考えた上で、藤沢市の子どもたちにふさわしい教科書を選んでいます。すべての教科書は文部科学省の検定を受けており、すべての教科書にはそのような解釈をするに至っていないと思っております。1つだけ、大人は情報量も多く、1つの文章でさまざまに読み取る場合があると思います。それは人それぞれの価値観であって、先入観もあると思います。私たちは子どもたちの価値観や先入観を押しつけるのではなく、子どもたちに歴史としての事実を教えることが大切だと思っています。その中で子どもたちが受けとめて、みずからが考え、行動することが大切だと思います。それこそが子どもたちの考える力になると思っております。いかがでしょうか。
澁谷委員 今回、委員長を含む3名の教育委員が育鵬社の歴史教科書を採択することを望むという現在の藤沢市教育委員会の現実は、教育委員の1人として重く受けとめなければならないと思っています。また、育鵬社の歴史教科書も他の教科書と同じく、文部科学省の検定を経た教科書であることに違いはありません。さらに、先ほど佐々木委員が述べられましたとおり、先生方は教科書を教えるのではなく、教科書で教えるのであり、私としては育鵬社の歴史教科書が、藤沢市の子どもたちにとって適切ではないという考えに少しも変わりはありませんが、歴史教育に対する藤沢市の先生方の認識と子どもたちへの指導の力を信じ、採択の結果については異議を唱えるものではありません。
小澤委員長 いろいろな視点からご意見をいただきましたが、大方の意見から社会、歴史的分野は育鵬社でよろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
小澤委員長 ご異議がありませんので、社会、歴史的分野は育鵬社といたします。
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小澤委員長 続きまして、社会、公民的分野についてです。発行業者は7者、東京書籍、教育出版、清水書院、帝国書院、日本文教出版、自由社、育鵬社です。ご意見をお願いいたします。
赤見委員 私は公民の教科書は育鵬社を推薦します。学習指導要領との関連ですが、「やってみよう」というコーナーで、リベートを取り上げまして、非常に言語活動の充実を図るように意図しているなと感じました。また、伝統と文化に関連して、見開きで、現代日本社会の写真入り説明が3ページの一覧表で紹介されています。また、江戸しぐさということでマナーの大切さが載っております。また、これは4つの観点ではないけれども、日本国民の安全、特に国民主権の侵害に係る拉致問題に関する記載が6ヵ所と最も多く、非常にバランスがとれているなと感じました。
藤崎委員 私も育鵬社がいいと思います。公民に関しては、現状の社会とかけ離れているというような課題を先生方も感じておられると思います。この公民におきましては、日本が現実に直面している問題との関連を踏まえての内容で、子どもたちに学習ができるのではないかと思います。ただし、公民に関しては今後、さらに研究をしていかなければいけない教科ではないかということも同時に思います。今回は現実の社会と対応できる教育を目指してということで、育鵬社がいいと思います。
澁谷委員 公民という科目は中学生に社会への扉を開き、社会とのかかわりへと導く科目であると思います。東京書籍の教科書には「私たちの政治参加」という社会参画の事例が載っていますし、巻末には社会参画の例が4つ上げられています。学習指導要領の公民的分野の目標に新たに加えられた「現代社会についての見方や考え方の基礎を養う」という点で、社会参加を考えることはよい学習活動と思います。また、子どもたちには公民において人権についてもしっかりと学んで欲しいと思いますが、東京書籍は人権に関する記述が豊富です。「ちがいのちがい」として、わかりやすく人権について説明されており、「共生社会について考えよう」では、全国中学生人権作文コンテストの受賞作文が掲載されており、中学生の関心を惹く適切な題材であると思いました。以上のことなどから、私は東京書籍がいいと思います。
小澤委員長 私は公民は育鵬社がいいと思います。それぞれの教科書に原発の問題を取り上げておりますが、原発の問題を取り上げ、投げかけているのが育鵬社だと思っております。今、藤沢の子どもたちにも震災後教育というものが必要だと思います。東北の復興はもちろんのこと、藤沢市としてどのようにしていくべきなのか、また、自分たちや子どもたちが何していくべきなのかを考えることが必要だと思っています。そういった意味でもしっかりと学習ができると思っております。ほかにご意見ありますか。
澁谷委員 育鵬社の公民教科書についてですが、私は幾つかの点で藤沢市の中学校公民の教科書としてふさわしくない教科書であると考えます。3点ほど述べます。この教科書では、日本国憲法に関する記述の中で、憲法改正について2ページにわたって取り上げています。法治国家である日本の根幹をなす法である憲法について、改正の必要ありととらえられかねない記述が見られることは、中学校の教科書としてふさわしいものではないと考えます。改正論議そのものを否定するものではありませんが、中学校教科書に1つの考え方のみを強調するような記述があることは、生徒の発達段階に即しているとは言えず賛成できません。2点目として、女性に関する記述です。男女雇用機会均等法や男女共同参画について述べた直後に、「男女の性差を認めた上でそれぞれの役割を尊重しようとする態度も大切です」と続けていたり、夫婦別姓について、「夫婦同姓制度も家族の一体感を保つ働きをしていると考えられる」としていることなど、女性の社会進出が家族の崩壊につながっているととらえられかねない記述が幾つか見られます。私は藤沢の子どもたちに、これまでの既成概念にとらわれることなく、それぞれの将来像を自由に描いてほしいと思っています。これらの記述は、今まさにその時を迎えようとしている中学生にとってブレーキをかけることになるのではないかと不安にならざるを得ません。3点目は、私たち教育委員が採択に当たり、参考とした資料の1つである学校から提出された「平成24 年度使用教科用図書調査書」によれば、育鵬社の公民の教科書の採択を望むという先生は藤沢市内に1人もいらっしゃいませんでした。言うまでもなく、教科書採択は私たち教育委員に与えられた権限であり、静ひつな環境のもと、教育委員は外部の意見に左右されることなく、みずからの責任を持って採択を行うものであります。しかしながら、私としては実際に日々、生徒たちに授業をしている先生方の知識や経験をもって作成された調査書の結果は真摯に受けとめなくてはならないと考えます。藤沢市の先生方の誰一人として希望していない教科書を採択するということについては懸念を抱かざるを得ません。しかしながら、先ほどと同じく、今回、委員長を含む3名の教育委員が育鵬社の公民教科書を採択することを望むという現実は、重く受けとめなくてはならないと思っております。育鵬社の公民教科書も他の教科書と同じく文部科学省の検定を経た教科書であることに違いはありません。また、先生方は教科書を教えるのではなく、教科書で教えるのであり、私としては育鵬社の公民教科書が藤沢の子どもたちにとって適切ではないという考えに少しも変わりはありませんが、公民教育に対する藤沢市の先生方の認識と子どもたちへの指導の力を信じ、採択の結果については異議を唱えるものではありません。
藤崎委員 澁谷委員の話を受けて、1つ、意見を言わしていただきたいのですが、女性の社会進出が進むにつれ高齢出産、また、少子化という問題が日本の中にあります。私自身もどちらかというと、仕事というものを中心に生きてまいりました。今思うことは、女性が働きながら子どもを産み育てていける、仕事と家庭をより両立できる社会を目指したいということです。その社会の実現のためには、この世に男と女が存在することを考えることはとても大切です。それは性差別の問題ではないと思います。
赤見委員 公民の教科書を考えるに当たって権利と義務という考え方をいつも念頭に考えたのですけれども、一部の教科書では権利が偏重されておりまして、義務という言葉が余り尊重されていない教科書が散見されまして、子どものころ、大人になれば自由になる権利もいろいろ得られると言われましたけれども、その自由を得る権利を得る中には必ず義務が生じるし、責任も生じる。結局、自分が1人で大人になって生活するには、自分の力で生活を支えるといった観点が大事になってきますので、その辺を意識して考えさせていただきました。内容に戻りますけれども、4番の本市の生徒の実態や地域との特性との
関連につきまして、「まちづくりを調べよう」というコーナーで、江の島がしっかり写っている藤沢市のウエブサイトが紹介されていまして、藤沢市の生徒には取りつきがいいのかなと考えました。また、神奈川県の記載に関しても7件と多い記載がございました。
小澤委員長 私たち教育委員は、冒頭にも述べましたが、いろいろな資料をもとに調査研究をしております。その中で1つだけにとらわれることではなくて、広い見識の中で考えながら、そして藤沢の子どもたちにふさわしい教科書を選んでいるつもりです。そして私たちはレイマンとして判断が求められていると思いますので、幅広い観点から判断をしています。いろいろな視点からご意見をいただきましたが、大方のご意見から社会、公民的分野は育鵬社でよろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
小澤委員長 ご異議がありませんので、社会、公民的分野は育鵬社にいたします。__